ぬーみんの日記

某大医大生の短期留学と膝のリハビリと医学メモ

悪性腫瘍と意識障害

こんにちは、最近松葉杖なしでウロウロしているぬーみんです。そうなんです、杖がなくても歩けるように(歩いても怖くなく)なりました。可動域もほぼ完全に健側の右足と同じぐらいまで回復しました。でも筋力はまだまだなので電気ビリビリ療法をしたりマッサージをしてもらっています。あと滑らかに動かすこともできないのでそこも課題ですね。(まだ恐怖心があるせいだと思います)

 

さて、今日はガン患者が意識を失った!?っていうときに思い浮かべるポイントについてです。

 

救急外来での意識障害の鑑別はずばり、AIUEOTIPSです。

A :Alcohol (急性アルコール中毒

I :Insulin (低血糖DKA、HHS)、Infection(脳炎髄膜炎など)

U:Uremia(尿毒症)  

E:Encephalopathy (脳症)、Electrolytes (電解質異常)、Endocrine (内分泌) 

O:Oxygen (低酸素、CO中毒、シアン中毒)、 Overdose (薬物中毒) 

T:Trauma(頭部外傷)、Temperature (低体温・高体温)

P:Psychiatric(精神疾患)、Porphyria(ポルフィリア)

S Stroke/SAH、Shock(ショック)、Seizure(痙攣)

こんなにたくさんあります。が、ガン患者で中毒、外傷などが否定される場合最も注目すべき項目は「電解質異常」です。

 

悪性腫瘍に合併しやすく、かつ意識障害を起こす可能性のあるものは高Ca血症と低Na血症と腫瘍崩壊症候群です。国試でも臨床問題の出題が見られます。

 

出典:https://www.slideshare.net/kensyuicom/ss-28088150

 

 

高Ca血症

悪性腫瘍では経過中にしばしば高カルシウム血症を合併し,時にはこの高カルシウム血症が直接死因となることさえあります。進行癌では比較的多い合併症で、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症は機序の面から以下の二つに分類されています。

  • 悪性体液性高カルシウム血症・・・PTH低値、PTH-related protein (PTHrP)高値となるもの。腫瘍細胞がPTHに似た物質(PTHrP)を放出することが原因

  例)肺扁平上皮癌、乳癌、泌尿生殖器系腫瘍、成人T細胞白血病

 

  • 骨転移・・・転移に伴って広範に骨破壊が起きることによる高Ca血症

  例)肺がん、乳癌、多発性骨髄腫

 

 

症状

軽度の場合は無症状ですが、12~13㎎/dlになると主に倦怠感、疲労感、食欲不振など否定形的な症状が出現、さらに高度になると中枢神経症状(イライラ感、筋力低下、昏睡)、消化器症状(悪心、嘔吐)、腎障害が出現します。悪性腫瘍に合併すると見逃されやすいのが現実ですが、ほかの疾患に比べて急速にCa濃度が上昇する特徴があります。脱水・腎機能不全などによる悪循環が加わって数日間のうちにカルシウム濃度が倍以上に上昇することもります。また低Alb血症を合併している場合は必ずCa濃度の補正も行うことが大切です。

 

治療

 原疾患の治療と同時に腎機能の低下、脱水症状、骨吸収亢進に対する治療が必要です。

  • 脱水・腎機能・・・生理食塩水+利尿薬
  • 骨吸収・・・ビスフォスフォネート

 

出典:http://square.umin.ac.jp/endocrine/ippan/03_disease/04_09.html

 

ちなみに高Caと低Caの神経症状、ややこしいですよね。わたしはこう覚えています。

「Caは多いほど意識は下がる」

高Ca・・意識障害、筋力低下、倦怠感

低Ca・・しびれ、テタニー、腱反射亢進

 

低Na血症(SIADH)

SIADHは、担がん患者に起こる低ナトリウム血症の最も頻度の高い原因であり、約30%を占め、担がん患者全体の1-2%に認められます。こちらも機序の面から三つに分類することができます。

  • 下垂体後葉からの分泌増加・・・腫瘍が迷走神経を障害しADH分泌抑制を解除する場合や、増大した腫瘍が下大静脈などを圧迫することで左心房容積受容体を介してのADH分泌が刺激される
  • 異所性ADH産生腫瘍・・・80%が肺がん。そのほとんどを小細胞がんが占める
  • 薬剤性・・・ビンクリスチンやシクロホスファミドなどの抗がん剤
症状

緩徐進行例の場合120mEq/L以上なら無症状の場合が多いです。進行すると悪心・食欲低下に加え、転倒、歩行失調、注意力低下画が出現します。110mEq/L以下になると意識障害やけいれん、場合によっては呼吸停止や不可逆的脳障害を起こすこともあります。また急速に進む場合は120mEq/L以上でも症状が出る場合もあります。

 

ちなみにSIADHでは低Naは起こしますが、尿量の増加は起こしにくいです。RAA系の抑制やANPによってNa利尿を起こして水分を尿として排出するからです(さらに低Naが加速しますが)。よって浮腫・腹水・胸水は起こしにくいです。

 

治療

原因によって大きく異なります。

  • 薬剤性SIADH・・薬剤の中止
  • 異所性ADH産生腫瘍・・モザバプタン(V₂受容体拮抗薬)

ですが、SIADHによる低Na血症の基本的な治療は

  • 軽症・・水制限+食塩投与
  • 重症・・利尿薬(フロセミド)+高張食塩水(3%NaCl)

です。またデメクロサイクリン(テトラサイクリン系抗菌薬)も腎集合尿細管細胞内におけるcAMP産生を阻害するため、ADHに拮抗して治療効果が得られるそうです。

 

出典:http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/canceruptodate/utd/201310/533663.html

 

 

腫瘍崩壊症候群(高K、高尿酸、高P、低Ca血症)

腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome: TLS)は、急速に増殖し、化学療法に感受性が高く、腫瘍量の多い腫瘍の治療に伴って起こりやすい、オンコロジック・エマージェンシーのひとつです。腫瘍崩壊に伴って、大量のカリウムやリン、核酸が血液中に放出されることが原因となり、腎尿細管に尿酸やリン酸カルシウムが沈着することによって急性腎不全を引き起こします。

腫瘍崩壊症候群は高悪性度リンパ腫(特にバーキットリンパ腫)や急性リンパ球性白血病の化学療法開始後に起こりやすいです。

つまり、大量のガン細胞を一気に抗がん剤で叩き潰したら中身のK、P、核酸が出てきた!ってことですね。

 

症状

けいれん、不整脈/突然死、急性腎不全(Crが正常の1.5倍以上)

 

治療

起きたらヤバいのでまずは起こさないように予防することが第一です。

  • 予防・・補液アロプリノール(事前のリスク判断によって若干変わりますが、とにかく尿酸、イオンの濃縮を防ぎます)
  • モニタリング・・尿酸PKCrCaLDH水分のin-outバランスのモニタリング。
  • 発症したら・・各種電解質異常や急性腎不全に対する治療、ラスブリカーゼ、ループ利尿薬や補液で尿酸結晶を洗い流す。必要があれば血液透析を適切に行う。

 

出典:http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/canceruptodate/utd/201310/533642.html