ぬーみんの日記

某大医大生の短期留学と膝のリハビリと医学メモ

なぜカルテを書かないといけないのか

私はまだ学生なので医師の業務をしたことはないですが、実習や見学で先生についているとカルテを書くという業務がいかに時間を取られてしまうか、というのを感じることができます。

きっと私も将来、めんどいなーって思うことでしょうね。

でも、どうしてカルテを書かないといけないのでしょうか。その理由についての講義があったのでまとめます。

 

理由その1:法律で決められているから

医師法第24条1項に、医師患者を診療したら遅滞なく「経過を記録すること」が義務づけられており、これを「診療録」としています。また、2項で記録後最低5年間は保存することが義務づけられています。

医師が診療したという事実は診療録を記載して初めて成り立ちます。

夜に飲み会や合コンが控えていても、手術でどんなに疲れていても、最低限その日のうちに診察したという事実は記録しておかなければなりません。昨日と変わりがなければ最低限「著変なし」、だけでも。このことについては後程重要な意味を持ってきます。

理由その2:多職種での情報共有のため

医療は医師だけでは成り立ちません。内服があれば薬剤師さん、入院しているのなら看護師さん、検査を受ければ放射線技師さんや検査技師さん、病理部、リハビリがあればPTさんやOTさん、さらには他院との連携のためにソーシャルワーカーとの情報共有が不可欠です。

ここで大切なことは、カルテは日本語で書くことです。紙カルテ時代は書くのがめんどくさかったため、ついつい英語のほうが画数が少ないので使ってしまいがちだったそうです。電カルなら日本語のほうが簡単ではないでしょうか。

理由その3:原因不明の疾患について後から考えるためのソースになる

臨床を5年も10年もしていれば、90%の患者さんは初見でほぼ病気の検討をつけられるようになるそうです。それでも初見ではわからない患者さんは10%ほどは存在するそうです。この時に他の医師と相談したりカンファにかけたり、また自分で文献を調べる時にも記録は必要となります。

そのほかにも、治療方針を見直して軌道修正する場合にも役立ちます。

理由その4:学術研究、論文のソース

臨床研究をする際にはカルテから情報を抜き出して生データにします。

 

理由その5:トラブルになった場合に自分の身を守る

悲しいことですがこのご時世、この理由でカルテが最も大切になってします。

例えば診察時には特に問題のなかった患者さんが自分の帰った後に急変して亡くなったとしましょう。もしこの日に患者さんの診察記事がなかったとしたら、実際は診察していたとしても、司法の世界では「診察をしていない」と取られてしまうのです。一言でも「急変前に自分は診察をしに行ったが、その時は問題なく経過していた」という旨の記載があれば医療側が負ける可能性が低くなります。これこそがその1で述べた滞りなくカルテを記載するべき理由なのです。そのほかにも「このような所見は見逃してはいませんよ」ということも証明することができます。

次に患者説明についてです。患者さんの家族は患者さんの容体が安定している限り何も文句を言わないしむしろ感謝していただけます。そのようなときにICを行えば割と落ち着いて聞いてもらえる場合が多いそうです。しかし、一旦容体が悪化するとご家族さんはパニックを起こしてしまいます。この時にICを行っても患者さんは希望のある話しか耳に入れません。例えば「今手術をしても救命率は70%ほどです。でも、もし手術が成功すれば2週間ほど入院で安静にしていただいて、2か月リハビリをすれば社会復帰も可能化もしれません」と説明しても、希望に縋りつきたい患者さんにとっては「死なない、2か月で完全に復帰できる」と聞こえてしまいます。この場合、書面による説明同意書とカルテに説明内容(ネガティブな内容もすべて含めて)がないと、司法の世界では説明不足と取られます。

さらに「診療報酬請求の根拠は、診療録にある」というルールがあります。ということは、たとえ実際に治療を行っていても診療録に記載がなければ、お金を請求した時点で違法になります。

(いや、司法の世界ってマジクソ)

 

 

というわけでカルテはすぐに書きましょうってことですね。