意味のある酸素吸入、意味のない酸素吸入
実習や国試の問題集でよく見る症候、例えばむくみとか動悸とか。
学生にとっては答えを解くカギでしかないけれど、いざ自分の身に起こってみるとかなり怖いです。ほんとに。
昨日、詳しい症状は伏せますがとある症候が出て目の前が真っ白になりました。身の危険を感じた私はありとあらゆる知識を動員して鑑別診断を開始しました。そしたら出てくる出てくる、予後不良疾患!!本気になれば身に着けた知識がポンポン出てくるものですね。
結局びょうみえも読んで鑑別してみたんですが、おそらく大したことのない病気だろうって結論になりました。一安心。
自分の身におかしな症状が起これば本気になって調べまくるのでよーく身に付きました。これは医学生にだけではなく一般の患者さんにも当てはまることじゃないでしょうか。最近はネットで医学的知識を検索できるので患者さんもご自分の病気についてはよくご存じのようです。医学のプロになるからには知識の上で患者さんに負けないのは当たり前で、患者さんに的確なアドバイスを与えたり不要な不安を取り除いてあげることや精神的な支えになることが医師の大きな役割ではないのかな、と考えた1日でした。
ちなみに医学生は仲間内で症状を鑑別するときは自分の知りうる最も予後不良な疾患を出していく、みたいな風習があります。だからまず当たりません。
さて、今日はどんな患者さんに酸素を吸わせるかについてです。結論から言えば重症患者にはとりあえず酸素を吸わせとけで間違いないんですけどね。
この時に大切な数値はずばりA-aDO₂です。これはA(肺胞)とa(動脈)のD(difference)、O₂(酸素)、つまり肺胞に含まれる酸素(PAO₂)と肺の毛細血管に含まれる酸素濃度(PaO₂)の差を表しています。このA-aDO₂の値が大きくなっているということは、何らかの理由で肺胞から毛細血管に移動するときに酸素分圧が低下している、ということになります。
PaO₂は血ガスから直接わかりますが、PAO₂は直接測定はできません。そこで理論式を用いて求めます。
PAO₂ = (大気圧ー水蒸気圧) * 酸素濃度 - PaCO₂/R
(大気圧ー水蒸気圧) * 酸素濃度は肺胞に吸い込んだ酸素の分圧です。そのあとのPaCO₂/Rはガス交換でCO₂と交換された酸素分圧を求めたものです。Rというのは
R = CO₂排出量 / 酸素消費量 (およそ0.8だが食事内容によって変化する)
で肺胞にあるCO₂(PACO₂)はどれぐらいの酸素と交換した結果生まれたものかを求めるのに使います。ところでPACO₂も直接求めることはできないのですが、CO₂の拡散能は非常に高いので
PACO₂ ≒ PaCO₂
と近似できます。よって肺胞内でCO₂と交換されてなくなってしまった酸素分圧はPaCO₂/Rと表すことができるのです。
これで例の覚えにくい式ができるわけですね。
A-aDO₂ = (大気圧ー水蒸気圧) * 酸素濃度 - PaCO₂/R - PaO₂
= (760 - 47) * 0.21 - PaCO₂ / 0.8 - PaO₂
A-aDO₂の値は理想的には0なんですが、様々な理由で開大していきます。一般に20を超えると異常値とされています。
A-aDO₂が開大する原因は主に3つです。
- 換気血流比不均等:1つの肺胞に対してたくさんの血流が流れる一方、流れない肺胞も存在する状態。間質性肺炎、肺水腫、ARDS、COPD
- 拡散障害:肺胞壁の肥厚や水が溜まることで血管に酸素が移動できない状態。間質性肺炎、肺水腫、ARDS、COPD
- 肺内シャント:肺動脈血が肺胞に接することなく肺静脈に戻っていく状態。先天性心疾患、無気肺、肺動静脈婁
要は肺が悪い、ということです。とにかく酸素を吸わせるべきです。
逆にA-aDO₂が正常なのに酸素化が悪ければ肺以外の原因が考えられます。いわゆる肺胞低換気ですね。呼吸筋マヒや神経疾患、気道確保ができていない、または呼吸停止です。この状況で酸素を吸わせることに意味がないとは言い切れませんが、何より大切なのは気道を確保して強制的に換気させることです。挿管からの人工呼吸!!
まとめ
酸素化が悪い患者さんで
- A-aDO₂が開大:肺が悪いから酸素を吸わせる
- A-aDO₂が正常:肺胞に酸素が入っていないから気道を確保
ってことですね